科学的根拠に基づく食事診断票[FFQW]とは

[FFQW]とは、Food Frequency Questionnaire Wの略語で、食物摂取頻度調査票のことです。

[FFQW]は日常摂取する食品をリストし、各食品の摂取頻度(全く食べない、~毎日食べる)と、1回の摂取量(S/M/L)の回答結果に基づき、およそ過去1カ月間の朝・昼・夕食別・1日合計のエネルギー、及び栄養素摂取量を推定することができます。

EBN食事診断票[FFQW]の意義

食育を効果的におこなうには、対象者の習慣的な食事摂取の実態を科学的に把握することが大切です。なぜならば、習慣的な食事摂取が子どもの成長、生活習慣病の発症、心身の健康に深く関わっているからです。単に1日分、あるいは3日分の食事摂取の記録では、対象者の習慣的な食事摂取状況とはいえず、簡便で正確度の高く、習慣的な食摂取を把握するためのFFQが必要不可欠です。さらに、食育の効果を科学的に評価するには、食育前の食事摂取状況と食育後の食事摂取状況を簡便に、かつ信頼性の高いFFQが不可欠です。

EBNの観点から、我々はこれまでに3つの食事調査票:<FFQW65><FFQW82><FFQW82青少年版>を開発し、その妥当性と再現性を検討し、その有用性を報告してきました。さらに、其々のFFQWが食育効果の科学的評価に活用できることを明らかにしてきました。近年のわが国における子どものやせ・肥満、成人に蔓延するメタボリックシンドローム、糖尿病等の生活習慣病等の解決のツールとして、簡便で精度の高いFFQWの活用を提言したい。

FFQWの特徴

  1. 過去1ヶ月間程度の習慣的なエネルギー摂取量及び栄養素摂取量を推定できる。
  2. イラストで食品名・摂取量を表示し、20分ほどで回答でき、回答者の負担が少ない。
  3. 回答結果に連動するソフトを用い、<食事診断報告書>速やかにフィードバック可能。
  4. 簡便で精度が高く、安価であるため、繰り返し使用でき、食育、研究に活用できる。

EBN食育のためのFFQWのの開発研究

1.糖尿病予防のためのFFQW65の確定

渡辺満利子・横塚昌子.:糖尿病予防栄養教育のための半定量的食物摂取取頻度調査票(FFQW65)の開発、 昭和女子大学生活科学紀要 724   pp.32-44   2000/10
山岡和枝・丹後俊郎・渡辺満利子・横塚昌子. 糖尿病栄養教育のための半定量食物摂取頻度調査票(FFQW65)の妥当性と再現性、日本公衆衛生誌、47   pp.230-244   2003/11

[要旨]

近年、根拠に基づいた栄養学 (Evidence Based Nutrition、EBN)という考え方が注目され、食育においても、その評価を科学的に実証していくことが重要な課題である。

栄養アセスメントにおいては簡便で精度の高い食事調査の開発が要求される。栄養疫学の分野では、妥当性の高い食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire:以後FFQと記載)の開発24,25)、それを用いた疫学調査結果が世界的に注目されてきた。

筆者らは、これまでに糖尿病予防のための栄養教育に用いることを想定し、食物摂取頻度調査票(以後、FFQW65と記載する)を開発し、その妥当性・再現性を報告してきた。

FFQW65は、FFQW65の妥当性の検討を、1週間の秤量調査結果との比較に基づき行い、再現性の検討を10ヶ月後の再調査結果との比較に基づき行った。その結果、エネルギーでは特に朝食の算定量が実測値との差および相関とも比較的良好であった。

また、栄養素別の1日あたり摂取量の予測ではカリウム、ナイアシン以外の栄養素では比較的良好な相関関係が認められ妥当性があると考えられた。

他方、再現性もほぼ妥当な相関が得られ、実摂取量推定の信頼性はあるものと考えられた。FFQW65の特徴は、65項目の食品リストで構成し、摂取頻度(全く食べない~毎食食べる、7段階)とポーションサイズ(3段階:S/M/L)を同時に尋ねる形式であり、最近1ヶ月間程度の個人のエネルギー等栄養素摂取量及び食品グループ別摂取量の推定を朝、昼、夕食別評価を可能とした。

こうして、EBN栄養教育に不可欠な食事調査法としてのFFQW65を確立し、1990年頃から増加し始めた糖尿病のハイリスク群を対象とする栄養教育に備えた。

2.栄養教育のためのFFQW82の確定

安達美佐, 渡辺満利子, 山岡和枝, 丹後俊郎.
:栄養教育のための半定量食物摂取頻度調査票(FFQW82)の妥当性と再現性の検討、 
日本公衆衛生公衛誌   pp.475-485   2010/06

[要旨]

著者らは近年の食生活変化や食品成分表、糖尿病食品交換表の改定に対応するため、FFQW65を基盤とし、82項目の食品リストに改訂し、食物摂取頻度調査票(以後、FFQW82と記載する)を開発し、成人男性・女性を対象として、その相対的妥当性と再現性を確定した。

FFQの妥当性に関する研究の相関係数(調査年が1996年~2007年)を表○に示す。FFQW82は成人を対象とした栄養教育において、個人の食事摂取量を把握するための調査票として妥当性を示す知見が得られ、特に朝食の充実などをめざした個人の栄養教育に資する可能性が示唆された。

FFQW82は、調査にかかる時間が比較的短い(ほぼ15分~30分程度)、調査対象者の負担が少ない。自記式で回答を受け、エクセル分析ソフトに入力し、対象者に対し短時間で食事診断報告書(食事診断報告書 参照)をフィードバックできるため食事の介入研究のツールとして活用することができる。

(FFQW82開発のプロセス)
目的
栄養教育に用いるための食物摂取頻度調査票(FFQW82)を開発し、その妥当性および再現性の検討を目的とした。
方法
妥当性と再現性の検討は、男性29名(42~63歳)、女性60名(35~53歳)を対象に行った。妥当性は1週間の秤量調査結果と再現性は1ヶ月後のFFQW82の再調査結果との比較により行った。データはすべて対数変換したうえでピアソン積率相関係数を求めた。
結果
FFQW82から算定されたエネルギーの推定摂取量は、1日合計では男性、女性ともに秤量調査から得られた実摂取量よりも高めであった(中央値の相対差はそれぞれ7%、15%)。
妥当性に関しては、相関係数はが、男性0.61、女性0.47であり、食事別では朝食、昼食では男女とも0.66~0.89と高かったが、夕食では男女とも0.19、0.26と低かった。9栄養素での相関は1日合計で男性は0.41(たんぱく質)~0.65(炭水化物)、女性では0.39(脂質)~0.59(カルシウム)の範囲であった。
再現性について、エネルギーでは男性0.65、女性0.69であり、9栄養素では男性0.46(食塩相当量)~0.70(炭水化物)、女性0.59(脂質)~0.70(食塩相当量)であった。
結論
FFQW82は成人を対象とした栄養教育において、個人の食事摂取量を把握するための調査票として、実摂取量に比べて高めに推定されたが、習慣的な1日のエネルギー摂取量に対する三食のエネルギー摂取量のアンバランスの改善や食生活改善に重要な食品群の適量摂取の理解を図るためのツールとして利用可能と考える。

3.FFQW82-青少年版の確定34)

Mariko Watanabe, Kazue Yamaoka, Misa Adati, Masako Yokotsuka,Toshiro Tango.
 Validity and Reproducibility of a Semi-Quantitative Food Frequency Questionnaire with 82 food lists (FFQW82): for Assessing Habitual Diet and Nutrition Education in female Youth/Adolescents. Public Health Nutrition、 pp.297-305   2010.

[要旨]

欧米では青少年の食事評価を目的としたFFQが報告されている 35)36)37)38) 。わが国においては成人のためのFFQの検討39)40)41)はなされてきているものの、青少年の食事評価の有効性についての検討を行ったFFQはほとんど見当たらない。

そこで、著者らはFFQW82を用い、妥当性と再現性の検討を63名の女子中学生を解析対象にして、妥当性は1週間の秤量法食事調査をgold standardとみなし、それとの比較により、再現性は1ヶ月後の再調査結果との比較により行った(以後、FFQW82女子中学生版と記載する)。

妥当性に関しては、1日当たり総エネルギー摂取量のピアソン積率相関係数は0.31であり、主要栄養素ではエネルギー調整ピアソン積率相関係数は、0.53(たんぱく質)、0.42(脂質)、0.28(炭水化物)であった。

微量栄養素では、0.53(カリウム)から0.31(鉄)の範囲内にあった。各食事別エネルギー摂取量に関しては、朝食のエネルギー摂取量のピアソン積率相関係数は0.59であり、FFQW82と秤量調査から求めた実際の値との相違は小さかった(差は34kcal、差の割合10%)。昼食、夕食、1日量の相関は、それぞれ0.40(差は75kcal、15%)、0.32(差は65kcal、10%)であった。再現性は1ヶ月後に回答の得られた60名を対象にした検討の結果、1日当たり総エネルギー摂取量のピアソン積率相関係数は0.62であり、主要栄養素ではエネルギー調整ピアソン積率相関係数は、0.62(たんぱく質)、0.46(脂質)、0.69(炭水化物)であった。微量栄養素では、0.76(カルシウム)から0.63(鉄)の範囲内にあった。

本研究結果より、FFQW82(女子中学生版)は、FFQ青少年版の妥当性に関する研究の相関係数(調査年が1997年~2010年)(FFQ青少年版の妥当性(相関係数)の比較 参照)は、他のFFQと比べても遜色なく、女子中学生の食事評価のために有用となるエネルギー及び栄養素摂取量の朝食・昼食・夕食別評価に利用可能と考える。FFQW82、及びFFQW82(女子中学生版)は、16食品グループからなる82項目の食品リストで構成し、各食品の摂取頻度と1回摂取量(以下,ポーションサイズと記す)を同時に尋ねるFFQである。その特徴は(a)簡便である、(b)最近1ヶ月程度の平均的摂取量の評価を行える、 (c)朝食、昼食、夕食の食事別、1日合計のエネルギーおよび主要な栄養素について個人の摂取状況を把握できる点にある。

また、回答者へのフィードバックは、FFQW82に連動する分析ソフトを開発しており、これを用いスピーデイにかつ分かりやすい2枚のシートに表示し、返却することで食事改善の動機づけ等に活用できる図1, 2)。

食育の科学的評価の実証的研究

  1. RCTに基づく糖尿病予防のための栄養教育効果の評価11) PDF PDF File
  2. クラスター無作為化比較試験に基づく都市部女子中学生の食事習慣改善のための食育効果の評価23) PDF PDF File